不完全な人ブログ

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小川未明童話集

小川未明童話集 (新潮文庫)

小川未明童話集 (新潮文庫)


家にある本を読み返そう週間。このカテゴリに何かを書くのは久しぶりですね。
赤いろうそくと人魚」「野ばら」などで知られる小川未明の童話集。
私は小学校か中学校の国語の教科書に載っていた「野ばら」が大好きでした。国境を隔てた青年と老人のお話なのですが、これが切なくて。授業中読んでうっかり泣きそうになったのはこの話とごんぎつねくらいです。
言葉一つ一つが美しく、夢のような世界を紡ぎだしているにも関わらず、そこに甘えは存在しません。当時の人々の生活がリアリティをもって描かれています。いつか白馬に乗った王子さまが、なんて夢物語は一つもないのです。だのにこんなに美しく、せつなく、温かい。あぁ、何度読んでも素敵。
以下は、この本を読んではじめて知った「月と眼鏡」という話から。

おだやかな、月の良い晩のことであります。(中略)おばあさんは、ただ一人、窓の下にすわって針仕事をしていました。
(中略)月の光はうす青く、この世界を照らしていました。なまあたたかな水の中に、木立も、家も、丘もみんな浸されたようであります。おばあさんは、こうして仕事をしながら、自分の若い時分のことや、また、遠方の親戚のことや、離れて暮らしている孫娘のことなどを、空想していたのであります。

ちょっと長い引用になってしまったのですが、美しいでしょう?